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山々の緑も日に日に濃くなり、日差しも夏を感じさせる六月初旬。御厨漁協の前の小径を上ったすぐのところにあるお寺。ここが今回訪ねる西雲寺。境内からは御厨の海を望むことができます。現在、住職を務めておられるのは第三十八世瀧川隆寛(りゅうかん)和尚。いつも笑顔を絶やさない陽気な和尚さんです。「昨日は島への法事でシケに揺られて、今日はちょっと体調が悪いんです」と仰りながらも滑らかな口調で取材は始まりました。 |
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西雲寺は慶長元年(一五九六)、念誉純智(ねんよじゅんち)上人によって開山されたと伝えられています。開山の理由については、あまり詳しいことはわかっておらず、念仏信仰を広めるためという程度のことしか伝えられていません。ただはっきりしていることは、西雲寺は昔から御厨の寺として地域に深く根ざし、ずっと念仏の教えを説き続けてきたということです。 |
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境内に足を踏み入れると、まず新しい本堂が見えます。この本堂は平成九年、老朽化のために位牌堂とともに再建立されたもの。「実はこの本堂建設にはありがたい逸話があるんですよ。」と住職は語り始めました。
当時、総代さんは位牌堂だけ再建立する計画だったそうです。本来、本堂と位牌堂は同時に建設すべきものなのですが、本堂建設となれば億単位の費用が必要。檀家さんの事情を汲んだ心優しい住職はそれだけでも有り難いと思われていたとのこと。ところが準備のため他のお寺を視察に行った総代さんが、そこの住職に「この際、本堂まで建てたらどうか」と諭され「本堂も建てましょう」と願い出たのだそうです。しかし地域の事情を知っている住職も「無理はしないように」と二の足を踏んでいたため、同様のやり取りが何度か続きます。しかし最後には総代さんに「和尚さん、頑張って建てましょう」と励まされ決断。この不況のさなか、檀家さんの大切な寄付と総代さん方の献身的な熱意によりトントン拍子に事が運びます。そして平成七年の発願から二年の歳月を経て、立派な本堂と位牌堂が完成したのです。このエピソードから西雲寺がいかに御厨の地に根ざしているかがわかります。 |
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そんな西雲寺でもやはり若い世代のお寺離れは問題で、そのため住職もいろいろ知恵を絞っておられる様子。
「お寺というと堅苦しくて、若い人には近寄りがたいイメージがあるようです。ですから若い人にはお茶じゃなくてコーヒーでもてなしたり、車やパソコンなどの話題でコミュニケーションをとるようにしています。また時々、食事に誘ったりもしますね。」そういった日々の努力はもちろん、地域の人が気軽にお寺へ足を運べるようにと落語会も開催されます。(※左上告知参照)
「お寺というのは一面、地域の集会所みたいなところがあるんです。落語にしても、説法ばかりだと退屈だからということでお寺で始まったものなんです。毎年、というわけにはいきませんが続けていきたいですね。」 |
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そういえば檀家さんが多数参加する無縁仏供養の日はもう三〇年以上、雨が降ることがないそうです。これはお天道様も陽気な住職につられてか、檀家さんの信心の深さゆえに雨を降らすことができないからかも。境内にはまだまだ元気に咲き誇る平戸つつじ。ここは元気と思いやりがあふれる場所なのかもしれません。 |
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この記事は平成17年6月19日発行のメモリアルだより(松浦版)第8号に掲載されたものです。 |