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松浦市内から伊万里方面へ車を走らせること十五分。静かに潮風が薫る今福港から右手へ小径をほんの少し入ると、歴史を感じさせる山門が目に入ります。山門をくぐると正面に本堂があり、裏手には本堂を抱きかかえるように愛宕山が広がっています。
ここが今回訪ねる善福寺。約六七〇年の歴史を誇る松浦市唯一の真言寺院です。現在、第三十六世憲広和尚が住職を務めておられます。さほど大きいお寺ではありませんが、松浦家の始祖である源久公を祀る今福松浦家の祈願所として、また九州八十八ヶ所霊場の札所としても知られる名刹です。 |
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寺史によると、創建は一三三五年(建武二年)、石倉山のふもとにある寺上村に建立されたとあります。この頃、西海の海を支配していた松浦党によって、善福寺は海上安全の祈願寺として庇護(ひご)されていました。その後、幾度か移転・再建を繰り返した後、一九〇九年(明治四十二年)、現在地に落ち着いたということです。 |
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現在、県の文化財に指定され寺宝でもある鰐口(わにぐち)とは、社寺の入口に吊るし参詣客がこの前に下がっている綱で打ち鳴らす金属製の鈴で、金鼓(こんく)とも呼ばれるものです。南北朝時代、松浦直十三世によって寄進されました。直径三〇センチくらいの円形の鰐口は、周囲に銘が彫られており、中心部はデコボコになっていることから、数多くの人がお参りしたことが偲ばれます。現在は屋外ではなく本堂内部に展示してあります。
裏手の愛宕山には、弘法大師伝燈である本四国霊場のお加護を受けた霊場があります。周囲にはぐるりと全行程約一キロにわたって四国八十八ヶ所霊場の石仏が九十数体祀られており、ミニお遍路さんとでも呼べる体験ができるようになっています。 |
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「本格的な霊場巡りはちょっと」という方のために、気軽に四国八十八ヶ所を巡ることによって得られる功徳を体験していただければとの思いから祀られております。そもそも八十八ヶ所霊場とは『発心』『修行』『菩提』『涅槃』の四つの智慧の徳を積んでいくことだと言われています。大きな霊場ではありませんが、石仏の前には本四国霊場から頂いたお砂が埋められておりますから、ちゃんとお砂踏みによる功徳を体験いただけます。以前の歩道は険しい部分もあったのですが、今年、約二ヶ月に渡って檀家さんに歩道を整備していただき、子供からお年寄りまで安心してお参りできるようになりました。」と住職。
是非にと勧められ、一緒に歩いてみました。春の柔らかい陽が差し、小鳥のさえずる山道にはコースに沿って赤い前掛けをした可愛らしい石仏が祀られています。風雨にさらされ少し苔むした石仏はどれも表情豊かに微笑みかけてくれているようす。ゆっくり見ているつもりがあっという間に一周してしまいました。 |
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気さくな住職は、自らパソコンを操って情報紙を発行するなど精力的に活動しておられます。年間を通してさまざまな行事が行われていますが、気軽に参加できるものとして節分祭(二月四日)と大般若祈祷会(七月十五日)があります。一度、参加されてみてはいかがですか? |
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この記事は平成16年5月16日発行のメモリアルだより創刊号に掲載されたものです。 |
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